Pride one
「そういやあいつ、最近ずっとうちに手伝いに来てるの? 青波荘も美波いないと大変じゃない?」

「それがねえ。美波ちゃんってひと回り年の離れたお兄さんがいたでしょう。東京のホテルで働いてた」
「うん?」

「……そのお兄さんがね、結婚してお嫁さん連れて帰ってきたんだって。民宿もお兄さん夫婦が継ぐとかで。ほら、そうすると美波ちゃんも家に居づらいのよ、もともと住んでたとはいえ。美波ちゃん、大学行かないでずっとおうちの手伝いしてきたでしょ。お兄さんもずっと、そういう接客業をしてきた人ではあるんだけど、やっぱりいろんな思いがあると思うのよね。それで今、うちに来てもらってるの」

「……そうだったんだ」
 それを聞いて優月は、美波がいちいち突っかかってくる理由にも、少し納得できた。

 美波は子供の頃からずっと、東京へ行ってしまった兄の代わりに自分が青波荘を継ぐのだ、と言い続けてきた。本格的にホテル業界で経験を積んできた兄のことは尊敬しているにせよ、譲れない思いもあるはずだ。

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