Pride one
 いったん脱衣所に戻って服を脱ぎ、シャワーで体をよく洗ってから、眩しいほど黄色い湯に浸かった。

「やばい、すげえ気持ちいい」
 優月は洋式のバスタブにゆっくりと上体を横たえて、脱力した声を漏らした。

 香りというのは、記憶とも結びつけされているらしい。優月は天井を仰ぎながら、しばらく子供の頃の懐かしい思い出に浸った。

(そういえば、美波の家は入浴剤とかやらないから、こういう日にはわざわざうちの風呂に入りにきたりしてたっけ)

 そうやって美波は、昔から頻繁にさざなみに出入りしていた。時期によってあまり寄り付かないこともあったが、大体それは優月に恋人がいたときだ。

よく自宅に連れてきていたから、さすがに遠慮していたのだろう。もっとも、どこで噂を聞きつけるのか、別れた翌日にはちゃっかり居ついているのだが。

 昔付き合っていた恋人の名前と顔を思い出しながらうとうとしかけたとき、脱衣所から物音がして目を覚ました。擦りガラス越しに、人影が動いているのが見える。

 母が何かを取りに来たのだろうか。声を掛けようとしたときに、向こう側から呼びかけられた。美波だ。
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