Pride one
「ゆず、開けるよ」

 せめて、開けてもいい? と疑問系で訊いてほしいものだが、それをしないのが美波だった。ガラス戸は返事をするよりも前に、無遠慮に開かれた。美波は神妙な面持ちをしている。

「さっきはごめん、友達もいるのにゆずの気持ち考えないで、あんな風に言って」
 頭を下げるとポニーテールの毛先が跳ねた。美波から謝ってくるとは珍しい。

「いーよ、結局は手伝って良かったって思ったし。……そういえば、さっき親からもぐらんちの話聞いた。なんか、お兄さん東京から帰ってきたんだって?」
「そ」
 バスチェアの水滴を手のひらでさっと飛ばしてから、美波はそこに腰をかけた。

「で、どうすんの。ずっとうちで働くってわけにはいかないだろ。隣だし、明らかに兄嫁を避けてます、って感じじゃん」
「……ゆずとわたしが結婚したら、色々問題ないんだけどね」

「はあ」
 優月は濡れた手で髪をかきあげて、半ばため息混じりに言う。

「結構本気で言ってるんだけどな。だってお互いに都合良くない? わたしはこの仕事が大好きだし、ゆずのお父さんとお母さんも大好き。わたしがさざなみを継げば、ゆずは心置きなく好きなことしてられるよ。ゆずの仕事って、ネットが繋がれば家でも出来るんでしょ? ……ね、彼女は?」
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