Pride one
「じゃあ今日は特別に、変身後のもぐらを初披露します。わたしのこと、少しは意識するようになるかもよ。いきまーす」

「ちょ……、待てって、まじで!」
 止めようとして伸ばした指が、美波の太腿を掠った。

「本当は見たいくせに。男の子だもんね」
 美波はバスタブから一歩離れた。

「まじでやめろっての、そんな簡単に――」
 優月は立ち上がり湯船から身を乗り出して、下着をおろしかけていた美波の両手首を掴み上げる。見たい、見たくない以前に、こんなことはやっぱりおかしい。美波は恋人ではなく、幼馴染みなのだ。

 いい加減説教のひとつでもしてやろうと、優月は口を開きかけたが、熱い視線が下腹に注がれていることに気がついた。

「ゆず、やっぱりちょっとドキドキしちゃった? かわいいっ」
 美波は無邪気な声を上げ、目を細めた。そのとたん、恥ずかしさと情けなさが加わって、頭が沸騰するほどの怒りがこみ上げてきた。

全部、人をからかうためのツリ行為だったのだろうか。相手の気持ちを無視して、人を意のままに操ろうとするのは今に始まったことではない。

 今までは幼馴染みという近しさが、諦めであり、優月の中のストッパーにもなっていたが、もう我慢の限界だった。優月は風呂桶をさらって黄色い湯をすくい、美波の横っ面を殴るごとくぶちまけた。
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