Pride one
「きゃあ!」
 美波は短い悲鳴を上げて、その場にしゃがみこんだ。

「お前もう帰れ!」
 優月は、髪から何からずぶ濡れになった美波の頭の上から怒鳴りつけた。

「何すんのよ、ひどい! わたし今褒めたのに!」
「実家にいたくないならさっさとどこか嫁に行けよ! おまえがいるから俺は実家に帰って来たくなくなるの!」

 勢いのあまり、たった数パーセントの理由が、すべてのような言い方になってしまったが、優月はそれを訂正する気はなかった。

「嫁になんていくか、バカ! ゆずのこと好きだってこんなに言ってるのに!」
「どうしたの? ……美波ちゃん?」

 怒鳴り声が耳に入ったのか、心配した優月の母が洗面所の方まで様子を見に来たようだった。優月はざぶんと湯船に浸かり直した。

 母は服を脱ぎかけたままずぶ濡れになった美波に驚いた様子だったが、なんとなく事情を察したようで、そのまま美波を洗面所まで連れ出してくれた。

世間体や男女ということを考慮してとりあえず自分の子を叱りつける、というようなことをしないのが、優月の母だった。
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