Pride one
 からからと音を立てながら、静かに風呂場の扉が閉められた。何を話しているのかまでははっきりと聞こえなかったが、泣いているのか、母と話をする美波の声が揺れているのだけはわかる。

「あー、もう。まじ最悪……」
 風呂場のへりに両肘を付き、優月はしばらくの間、ただうな垂れていた。



 風呂から上がっても、未だ優月の気分は最悪だった。疲れきった体を引きずるようにして階段を上り、友人たちが待つ部屋に戻ると、リラックスした表情で暗い海に視線を投げていた坂巻が、笑顔を向けてきた。

「優月くんおかえり」
「まきちゃーん」

 優月は背中から坂巻に抱きついた。肩に顔をうずめ、そのままぐったり体重をかける。しばらくそうやって潮騒の音に耳を傾けていたが、ふいに坂巻がよろめいた。

「どうしたの、何かあった?」
「やっぱりまきちゃんがいちばん癒される。俺、まきちゃんと結婚する」

 優月は膝を曲げ、そのまま坂巻の体を後ろに引く。もつれるように畳の上に倒れこみ、二人は声を上げて笑った。
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