Pride one
「じゃあまきちゃんに免じて許す。……明日顔合わせたら、俺から挨拶くらいすることにするよ」

 優月は、我ながらふてくされた子供のような言い方だと思った。坂巻は気持ちに折り合いをつけようとする優月を察したように、目を細めた。

 思いをめぐらせるあいだ、広いとはいえない客室にはただ、優しい波の音だけが聴こえていた。



 短い帰省は、もう終わろうとしている。
 両手いっぱいの土産物を母親から受け取って、優月は黒のジープに乗り込んだ。

「もうさあ、多すぎるよこれ。みんな一人暮らしなのに」
「男の子はこれくらいすぐ食べちゃうわよ。干物には保冷剤つけてあるから寄り道しても大丈夫だと思うけど、帰ったら冷凍庫に入れてくださいね。入るかしら?」

「はい。たくさん、ありがとうございます。たったあれだけの手土産でかえって気を遣わせてしまってすみません」
 運転席から神長が頭を下げた。

「いえいえ。あんなおいしいお菓子のお礼がこれでごめんなさいね。二人とも、またいつでも遊びにきてね。それから、優月のことよろしくお願いします」

「はい」
 神長が別れの挨拶を済ませている間にも、後部座席の坂巻は、窓からあたりを見回している。
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