Pride one
「ゆず!」
 サンダルをつっかけて、つんのめりそうになりながら外に飛び出してきたのは、美波だ。泣き腫らしたような、そしてまた今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

「悪い、後ろきてるから停まれない」
 ハンドルを握る神長が早口で言う。

「その少し先のとこ、寄せればどうにか停められそうじゃない? 無理かな」
 後部座席から身を乗り出し、坂巻がほんの僅かな路肩を指す。

 美波はその間にも、ジープにまっすぐ向かってくる。

「これで後ろが通れなさそうだったら、一回この道抜けてから引き返すよ」
 神長はサイドミラーを擦りそうなくらいぎりぎりの位置まで車を寄せて、ハザードを焚いた。

「ゆずっ」
 息を切らして駆けてきた美波が、助手席の窓枠を掴んだ。

 額にうっすらと滲んだ汗で、前髪が額の上に不恰好にへばりついている。昨晩はあれだけ腹を立てていたというのに、潤んだ瞳を見たとたん、突き放すことができなくなった。

「美波、昨日はごめん」
 優月は目を逸らさずに言う。

 美波はすぐさま首を横に振り、ポケットに手を突っ込んで、くしゃくしゃになった紙を優月に向かって突き出してきた。読め、ということなのだろう、優月はそれを黙って受け取った。
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