Pride one
 ビーチを見下ろせる高台に位置する『さざなみ』のすぐ隣には『民宿青波荘』がある。その青波荘を営む夫妻の娘、茂久田美波が先ほどの電話の相手だった。

「沖縄くらい行ってやれば良いのに」
 神長は口元に、さも意味ありげな笑みを浮かべていた。今まで何度か優月の実家に訪れているから、美波のことも当然よく知っている。

「無理。だってあいつ、俺のことガチで好きなんだもん」



 秋、九月。優月は神長と坂巻を誘って静岡にある実家に帰省していた。

「あー、食った! やっぱ実家帰ってくるときはお客さんがいいや」
 満腹の腹をさすりながら、優月は畳の上に寝転がり、至福の時間を堪能していた。

 実家を離れて魚を食べる機会が減ったこともあり、昔は当たり前だった食事も特別に感じる。大人になると、子供の頃に当たり前だった数々に感謝するとはいったものだが、まさにそんな感じだ。

「すごいボリュームだよね。でも、鯵がすごく美味しい。刺身とフライと煮付けと……。もうビールが入る隙間がないや」

 民宿に泊まるのは初めてだという、坂巻も降参だ。そんな中、黙々と一人で箸を進めているのが、普段からほぼ食事を残すことのない神長だった。
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