Pride one
「帰ってきたときくらい、家の仕事手伝いなさいよ。おじさんとおばさん、ゆずに甘いから何も言わないけどそんなの常識だよ? これから配膳。冷める前に全部出すんだから手伝ってよ」

 顔に似合わない甲高い声で、美波は言った。

「繁盛期外して帰ってきてるんだから、大丈夫でしょ。あとで食器洗いくらいやるよ」
「そんなの食洗器まかせじゃない。気持ちが感じられないわよ。もうちょっと親孝行しようとか思わないわけ? 今年の夏休みシーズン、『さざなみ』はすごく忙しかったんだからね」

「知ってるよ、そんなの」
 優月はふいと顔を背ける。怒りたければ勝手に怒ればいい。うるさいのは迷惑だが、両親はそもそも手伝いなど望んでいない。美波に強制されて手伝いをしても、親に気を遣わせるだけなのだ。

「あの、僕でよかったらやりますけれど」
 今にも大爆発しそうな美波を見かねたのか、坂巻が間に入った。

「えー、ほんとですか? ありがとうございます。じゃあ配膳する部屋と手順を教えるのでお願いしますね」
 美波はころっと態度を変えた。微塵も遠慮せず、しっかりと坂巻の手を取った。

 当然客人である坂巻に手伝わせるわけにはいかず、そうなると半強制的に優月は手伝いを強いられることになる。無視すれば本気で坂巻をこき使うのは目に見えているだけに性質が悪い。
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