Pride one
「まきちゃんはお客さんなんだから、気軽に触るなよ」

 優月が美波の腕を払う。自分の思い通りの風向きになりそうなことを喜んでいるようで、唇の端が微妙に上がっている。

「ゆず、手伝ってくれるの?」
「ごめんね、ふたりで先に風呂入っちゃっていいよ。俺、家の風呂もつかえるから」
 優月は美波に背を向けた。

「無視かよ」
 優月の側頭部に尖った声が突き刺さった。それから両腕をがっしりと掴み、
「ごめんなさいねー。それじゃちょっと優月借りますね」と、美波は優月を部屋の外に引きずり出した。

「無視かよ」
 優月の耳元に、今度はやけに甘い声が届く。
「やめろよっ」
 気持ち悪い、という言葉を口先ぎりぎりで飲み込んで、優月は美波の大きな手を力任せに振り払った。

「だってゆず何も返事してくれないんだもん。ねえねえ、あの超かっこいい人、去年も来たよね。同じ会社の人だっけ」

 優月の態度にもお構いなしで、美波はどこか浮かれた様子で話をした。しめ縄のように頑丈で図太い神経をしているようで、何を言おうがどんな態度を取ろうが、まったく効かないのが厄介だった。
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