【短完】家族妄想
夏那side。
階段を駆け下りていった義姉の姿を目で追いかける。そのスピードは到底、赤子を抱えた母親が出していい速さではない。
吐き気が込み上げる。何、あれ。
髪の毛のボサボサな姉の目は完全にいかれていた。
だけど同時に合点がいった。仕事が辛くて精神が崩壊してしまったのだろう。
理屈は分かるけど。だけど。
ナンダソレ。
引き篭っていたのは3年って、どういうことなの。その子は2歳なの?アタシが義姉の部屋に行く時に聞こえていた幼児の声はその赤子の声だったとでもいうの?
道理で聞いたことがあるはずだ。あの赤子の声が、義姉のものだったとしたなら。義姉の裏声だったとしたら…?
なんだそれ、なんだそれ。
寒気が走る。吐き気が酷くなる。
手で口を覆う。
生理的な涙が、自分の目から零れ落ちた。
下から、母さんの怯えたような悲鳴が聞こえる。
「海夜ちゃん、あなたが今、腕の中に抱えていたものは、赤子なんかじゃない。
…………フランス人形だよ。」
【終。】