三月白書

「なぁに? 結局その話が成立しちゃったわけ?」

 いつもどおり、伸吾くんと一緒に学校を出ると、校門の前に美弥(みや)お姉ちゃんが待っていてくれて、三人で一緒に帰ることになった。

 その途中で、帰りがけの教室での話が持ち上がったわけなんだけど…。

「まさか、本当にそんな話が成立しちゃうなんておかしいじゃない!」

 事の成り行きに怒りだすというよりか、あきれ返ってしまっているみたいだった。

「だって……」

「だっても何も。そんなことやるのがおかしいよ。なんで真弥がそんな目に遭わなくちゃならないの?」

 ポニーテールの髪を大きく揺らしながら顔も膨らませている。

 怒るのが当たり前のことなんだけどね……。ただでさえ笹岡を受験するというのは、お姉ちゃんも通ってきた大きなプレッシャーのかかる道。それを言ってみれば賭け事にしてしまったクラスの雰囲気が許せないという感じだった。

「だって、黙っていても言われ放題だもん……」

「だからってねぇ……」

 苦笑しているお姉ちゃん。わたしを怒るというより、振り上げた拳をどう下ろしたらいいか困っちゃってるんだ。

「わたし、頑張る。その後だったら、なにを言われてもいい……」

「真弥……」

 うちには時々学校から連絡が入る。わたしの体調とか、もちろん笹岡受験の話のときにも確認があった。
 お姉ちゃんの時でも、あの受験は五分五分の綱渡りだったけれど、それを挑戦した
からこそ、今の制服を着ている。


「まぁ、頑張って合格しちゃおうね。私だって真弥と一緒に学校通えるようになるのが楽しみなんだから」

「お姉ちゃん……」

「まぁ、シャクなんだけど、約束しちゃったものは守らなくちゃね。頑張ってきてるんだから、それは無駄にしちゃダメだよ。そこまで言われたんだから、真弥も条件突きつけてやればいいんだよ」

 伸吾くんと別れ、二人で家に帰る。うちは両親が共働きだから、お姉ちゃんが夕食を作り、二人だけで食べた後は勉強をみてくれる。

「ほら、この問題は見るところ違うんだよ」
「うん……」

 お姉ちゃんの厳しい声にも、黙ってうなずく。分かっていることだもん。あれだけ難しい学校をわずかな時間で合格できるような学力を付けるためには、それしか方法がないんだから……。

 その日も時計の針が12時近くまでそんな時間が続いた。

「怒ってごめんね……。また明日頑張ろうね……」
「うん。おやすみ、お姉ちゃん」

 お父さんもお母さんも先に休んでいて、お姉ちゃんはいつもわたしに謝ってから寝る。そんな必要はないんだけど……、それがお姉ちゃんなりの気持ちだから。

 わたしも、次の日の学校に響かないようにすぐに目をつぶった。
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