三月白書
自分の席に座って、届けられた封筒をギュッと抱きしめてみる。
「よかったな。これで葉月をバカ呼ばわりするヤツはいなくなるだろう」
「そっか……」
抱きしめていた封筒の内側にクリップで留まっている紙を見つけた。
今朝、お姉ちゃんに託した受験票の裏側に大急ぎで走り書きをしたと思われるメモには、『よく頑張ったね。また3年間一緒だよ』とだけが書かれていた。
「お姉ちゃん……」
さっきの先生の言葉よりも、このお姉ちゃんのメモ書きのほうがわたしの心に突き刺さった。これは現実の事なんだと。無茶だと言われ続けていたけれど、わたしが合格したんだよって。だって、わざわざその書類を届けてくれたなんて、それじゃぁお姉ちゃんは学校どうしたんだろうって……。
そんなことを考えると、涙があふれてきて止まらなくなってしまった。
クラスの中に広がっていた興味本位の、わたしのことを笑う準備をしていた雰囲気は消えてしまい、事の成り行きにどよめきが広がっていた。
「おい成田! 葉月は約束守ったぞ。おまえどうするつもりだよ?」
伸吾くんは教室の後ろの方でひそひそ喋っていた彼らを睨みつけた。
「ど、どうするって」
仕方ないよね。みんなのなかではこういう結果になるなんて絶対に予想していなかったと思う。
でも、先生の言葉だけじゃなくて、わたしの手元にある封筒が何よりもの証拠だ。
「ふざけたこと言うんじゃねぇ。あれだけ散々バカにしてきたじゃねぇか。俺は葉月に今日学校休めって言った。でも、こいつはおまえらに約束があるからって学校来たんだぞ。よっぽど葉月の方が堂々としてるじゃねぇか。おまえらが葉月にしてきたこと、よく考えてみろ!」
「もういい……。もういいよ……」
「葉月、おまえいいのかよ? あんだけバカにされて、悔しかったって言ってたじゃねぇか。泣いてたじゃんか。あいつらにきちんと謝らせなくちゃ気がすまねぇ」
先生が荒げる伸吾くんを押さえて、クラスのみんなに向かって言った。
「坂本君、もういいわ。みんな分かった? 人が嫌なことをし続けていると、結局困るのは自分なのよ。葉月さんは努力して自分で結果を出した。成田君は葉月さんに何でもするって言ったわね。葉月さんのお願いを聞いてあげてもいいんじゃないかしら?」
そんなこと、すっかり忘れていた。わたしが結果を出した時の事なんて自分だって考えられなかったんだもん。
「いいよ。なんでもしてやるよ」
「先生、そんなこと言わないでください。わたしなにもいらないです……」
突然なにが欲しいといわれても、そもそもこんな展開は想定外でなにも考えてはいなかったし。それに自分が欲しいと思うものは、他の誰かがどうにかできるものではないものばかりだということを、自分が一番よくわかっている。
「本当に?」
「欲しい物はなにもないです。じゃぁ……」
わたしはこれまでの学校生活を振り返って、ひとつのことをお願いすることにした。