三月白書
みんなで頑張ったから
発表のタイミングからだいぶ遅れたおかげで、誰もいない掲示板の前で私はひとり数字を追う。
「あった…………」
もう一度、手元と見比べる。間違いない?
足に力が入らなくなって、スカートが汚れるのも構わず、その場に座り込んでしまった。
「美弥!」「葉月!?」
クラスメートが駆け寄ってくる。教室からは見えないはずなのに。きっとみんなにも分かっていて、校舎の影かどこかで見ていたんだろうな。
「大丈夫?」
みんなは、私が座り込んだ理由を知らない。どっちの結果だったとしても私のリアクションは同じだったと思うから。
「ごめん。まだ自分の目がおかしいんじゃないかって。代わりに見てくれる?」
目がかすんでしまった私の代わりに、みんながもう一度掲示板を見上げてくれた。
「あったじゃん!」
「おめでとう」
「美弥、頑張ってたもんね」
放課後の自分の時間のほぼ全てを妹の受験対策に充てていたことは、クラスメートも知っていてくれていた。申し訳ないこともたくさんあったはずなのに。
「教室戻らなくちゃ……」
まだ午前の授業は1時間残っている。そのためにも教室に一度戻らなくちゃ。
「そんなの気にしないで手続きしてきちゃいなよ。今日の午後は奉仕作業で授業ないし」
「大丈夫かな?」
預けた受験票を帰してくれながらみんながうなずいている。教室の事は任せろというくらいだった。
「小さいことは気にしない。どうせ受付にいる先生だってなんも言わないでしょ。あたしも付き添いで行くから。保健室で休んでるっていえば教室も平気だよ」
偶然にも保健委員でもある親友に背中を押されて、美弥はもう一度手の中の受験票を握りしめた。
事務室に顔を出すと、何も言わないうちから昨年担任をしてくれた先生がニコニコしながら封筒をすぐに渡してくれた。
「葉月さん、妹さんによろしくな。小学校の方にはもう結果連絡は入れてあるんだけど、それを渡しに行ってもらえないか? 奉仕作業の方は先生からの別の指示ということで出席扱いにしておくから。そのまま帰宅して構わないからな」
「分かりました。すぐに届けてきます」
「美弥、ここで待ってて。荷物持ってきてあげるから。先生、保健室で休んでいて、先生の用事で帰るってことにしておいてください」
「分かった。それで処理しておくよ」
そんなことで、私は帰宅がてら小学校に書類を持っていくという重要な仕事を任されて学校を出たんだ。