三月白書
「笹岡かぁ……」
先生はわたしが言った学校の名前をもう一度呟いた。
わたしが言った私立の笹岡学園は中高一貫校。わたしの家からも歩いていける距離にある。校風も比較的自由で、わたしたち小学生の間でも憧れる学校。でも、その一方で学力レベルが高いから、難関校として有名になってしまっている。
うちの小学校からも、毎年十人以上が受験をしてきているけれど、合格率はすごく低くて、毎年一人か二人というのがやっとというのが現実だから、先生は余計に心配になったんだと思う。
「それは……」
表向きの理由ならいくらでも思いつく。でも、それを言ったところで、きっと先生には通用しないよね。
言葉に詰まってしまったわたしの様子を見ても、先生は首を横に振ることはなかった。
「そうね……、あそこならね……。葉月さんには今よりはずっといい環境になることは間違いないと思うのよね」
逆に、わたしの心の中の声を代弁するかのように、先生はうなずいてくれたくらいなのだから……。
「葉月さんも、それを理由の一つにはしているんでしょう?」
「はい……。それもあります」
「そうよね……。先生も、それは間違っていないと思う。もし入学試験がないなら葉月さんにはそっちのほうがいいなって思ってはいたけれど、私立校だからどうしても受験ということになってしまうけど、それでも頑張れる?」
窓の外の光が弱まっていくにつれ、教室の中も少しずつ暗くなっていく。そんななかで、先生とわたしは少しずつ答えを出しつつあった。