三月白書
「葉月さん、今日の放課後に昨日の話の続きをしてもいいかしら?」
「はい。教室で待っていればいいですか?」
言われたとおりに、放課後の教室で先生を待っていると、ファイルや書類を職員室から先生が持ってきてくれた。
「遅くなってごめんなさいね。先生もいろいろ調べてみたから、その報告をしなくっちゃと思ってね」
昨日と同じように机を並べ替えて、同じように座ったけれど、今日はいろいろな資料が先生の手元に置かれているのが違っていた。
「葉月さんが笹岡を受験したいって気持ちは十分に分かった。そして、笹岡ならお姉さんのこと以外でも十分にフォローしてもらえることも分かったわ」
先生は資料を開いて、わたしにも分かりやすいように説明してくれた。
お姉ちゃんも多分知らないことだと思うけれど、笹岡学園ではわたしのような病気を持っていたり、体が多少不自由であっても、学校が問題ないと認めてさえくれれば、普通の学級にも入れる。そういった市内でのモデル校になっているくらいだから、学校全体でも受け入れ態勢ができているってこと。
少し難しくて全部を理解できたかと言われれば微妙なところもあるけれど、学校の仕組みとしては先生も十分に納得できるということだって。
でも、先生が学校に聞いてくれた話だと、入学試験自体は易しくなるわけじゃないから、体育の成績が低いわたしは他の教科で頑張らなくちゃいけない。
「わたしも……今のままじゃ無理だって……、分かってます。でも、やってみたいんです」
もともと、わたしはいつも「クラスのお荷物」なんだもん。結果はどうなるか分からないけれど、やれることはやってみたいって思った。
「ご家族は? 反対はされなかった?」
「はい。結果は分からなくても、やりたいならやってもいいって」
昨日の夕ご飯の時に、学校で先生に相談したことを家族に話したら、「真弥が頑張るというのなら、家族みんなで応援する」と言ってくれた。
これは3年前のお姉ちゃんの受験の時もそうだった。だからといって特別のことをするわけでもないし、いきなり塾に通いだすということでもない。
もし、不合格だった時には普通に他のみんなと同じ中学校に進学すればいいだけの事なんだ。
もともとお母さんは、わたしたち姉妹が生まれる前は学校の先生をしていたというのだから、お家で勉強を教えてもらうこともできるし、そのお母さんが反対しなかったというのは、今のわたしでもまだ間に合わせられるということなんだと思う。
「葉月さん、お家の方もそう言ってくれているなら。先生たちも協力する。やれるだけのことをやりましょう」
「はい。無茶苦茶言ってごめんなさい。頑張ってみます」
その日の話し合いはそこで終わって、昇降口まで送ってくれた先生は、わたしが校門を出るまでその場で見送ってくれたんだ……。