三月白書
誰にも言えない理由
11月も後半になってくると、6年生のわたしたちは少しずつイベントが増えてくる。
卒業アルバムの写真を撮ったり、文集を作るための作文書き、下級生への記念品を作ったり……。
こんな作業をしていると、わたしたちの小学校生活がもうすぐ終わりに近づいているんだなと思ってしまう。
そんな時間の中で、今後の進路についての説明の時間があったりもした。
「葉月、ごめんな……。中学一緒に行けなくて……」
作業をしながら、隣に座っている坂本伸吾くんが私に謝るように言ってくる。
「ううん。仕方ないよ。お家の都合だもん。謝ることないよ……」
伸吾くんとは、6年生のクラス替えがあったときに始めて同じクラスになった。
そして、他の男の子とはちがって、わたしの病気のことを聞いてくれてからは、いつもわたしを気にかけてくれるようになった。このクラスの中でも数少ないわたしの味方っていうのが一番近い言い方かな……。
でも、夏休みが終わって学校で顔を合わせたとき、伸吾くんはおうちの都合で、小学校の卒業式が終わると引っ越しがあって、同じ中学校に行けないことを話してくれたの。
わたしも泣くのを堪えていたけれど、それを言わなければならない伸吾くんだって辛かったと思う。だから、必死で泣くのを堪えたよ……。
伸吾くんがいない中学校で、3年間を過ごすのは考えられなかった……。
だからね……、わたしはその頃から真剣に中学受験を考えるようになった。
伸吾くんに責任がある訳じゃないけれど、やっぱり「一緒に行けない」という事実がわたしの判断の中で大きかったのは嘘じゃないと思う……。