三月白書
「葉月は、中学行ったら、俺がいなくても頑張れよ?」
「うん……。わたしにできるかな……」
そうだよね、こうやって伸吾くんに守られているのは、今年のクラス替えがあった偶然なんだ。これに甘えていちゃいけないんだよ。
「できるさ。でも、周りがこいつらだったら、最初は大変かも知れないな……」
「あ……。でも、わたし受験するよ?」
「え? 中学、私立行くのか?」
驚く伸吾くんに、わたしは初めて家族と先生以外の人に中学受験を決めたことを打ち明けた。
だって、こんなわたしが中学受験組に加わるなんて、誰も予想していないだろうし、それも志望先が笹岡学園。どこで誰に何を言われるか分からない。
先生も準備が整うまではみんなには話さないようにしましょうと言ってくれたし、わたしもその方が間違いないと思っていた。
「だって……、伸吾君いなくなっちゃったら、わたしひとりぼっちだもん……」
「そうだなぁ。うかるといいな。どこ受けるんだ?」
周りをちょっと見回して、伸吾くんに耳打ちする。
「笹岡ぁ!?」
「ダメだよ。そんな大声で言っちゃ……」
「ごめん。本当に受けるのか?」
頭のいい伸吾くんも驚くぐらいだから、やっぱりむちゃくちゃを言っているのだとわたしも分かる。わたしにいろいろと宿題を教えてくれる伸吾くんでさえ、とても合格圏内に入ることは無理だと諦めていたんだって……。
「うん。落ちたらみんなと一緒。だから内緒にしておかないと……」
仮に、中学に上がって、周囲から受験に失敗したから公立に来たと言われたときに……、それが本当のことだとしても言い返せなくなっちゃうから……。
「他に誰か知ってるのか?」
「ううん、先生と家族と伸吾君だけだよ」
「そうかぁ。それなら応援するよ」
そこで先生が教室に入ってきて授業が始まったから、そのお話は一度そこで中断になった。