三月白書
はじめての反抗心
冬休みまであと数日。先生が職員室に消えたとたん、教室はみんなのおしゃべりであふれた。
仕方ないよね、卒業を控えた小学6年生だもん、いろいろと反したい盛りではあるだろうし……。
話題は冬休みの予定や塾の話、中学校の噂などがほとんどみたい。わたしは隣の伸吾くん以外には話し相手もいないので、ぼんやりと外を見ていた。
「そう言えば、葉月は笹岡受けるんだよなぁ?」
突然、大きな声が廊下側の席の方からきこえた。
「えぇ~?!」
クラス中の視線がわたしに集まる。
「葉月、誰かに話したのか?」
伸吾くんがすぐにわたしに聞いてくる。
「ううん。誰にも話していないよ?」
「そっか……。どこかか噂みたいに流れてそれが本物みたいに伝わったんだろうな」
これがきっと他の子だったら、こんな大騒ぎにはならなかったと思う。きっとわたしだからなんだよね……。
「おまえマジか?」
「ホントに受けるの?」
驚く声、心配する声、もちろん大部分は嘲笑の声ではあるけれど、ここまで大騒ぎになっちゃったら、なにも答えないわけにはいかない。
どうせいつかは分かっちゃうことなんだもん。
となりの伸吾くんともうなずきあって、覚悟を決めることにしたんだ。
もう一度、心配そうにしている伸吾くんに笑顔を作る。
このままうやむやにされるよりはいいから。
「受けるよ。結果は分からないけど……」
クラスに驚きと笑い声が混じった。
「ま~、無理だろうな」
うん、そう言われるのは予想していたもの。このくらいなら平気。
「無理でもやってみないと分からないもん……」
「葉月が受かると思う奴いるかぁ?」
「成田、おめぇ、そんな言い方する事ねぇだろ!」
それまで黙ってことの成り行きを見守っていた伸吾くん。
さすがに腹に据えかねたのか立ち上がって怒鳴った。
「いいよ。そんな事で喧嘩しないで……」
「葉月、おまえ悔しくないのかよ?」
分かってる。伸吾くんがわたしを心配してくれている気持ち。
でも、ここで悔しいとか言っても、出来るかどうか分からないことを公にしたんだから、それこそもっと好き放題言われちゃうから黙ってる。
「みんなうるさいわよ。廊下まで聞こえてるじゃない」
職員室に消えていた先生が教室に戻ってきたけれど、教室の中の騒ぎは収まる様子を見せなかった。