二択
「自分だけ、助かろうという考えさ」

幾多の言葉に、

「俺達は、塾に行きたかっただけなんだ!これを、さっきのやつに邪魔され、行けなくなったんだ!どうして、こんな目にあわなければならないだよ!」

学生の言葉に、幾多はこたえた。


「それが、人生だよ。予定通り行かない…。自分が思うようにはね。そんな時、どうするのかで…人は己の本質を垣間見せる」

幾多は、笑みを浮かべていた口許を引き締め、目を細めた。



「と、思うだろ?君も」

バスの後部座席にいた男が、パニックになる人々の間をかき分け、

学生よりも前に出てきた。

そして、盾になるように立つ男を、

ただ…幾多は凝視した。




「ここまでやる必要は、ないだろ。考え方だけで、人を殺す必要があるのか」

一番前に出てきたのは、長谷川正流だった。


あまりの疲れで、深い眠りに落ちていた長谷川は、運転手が刺されたところから、目が覚めていたが、


そこからの壮絶な出来事に、どう対応していいのか、わからなかった。


今もわからない。

だからこそ、前に出た。


警察が来るまで、何とか食い止める為に。



幾多はそんな長谷川に、肩をすくめると、

「その通りだよ。だけどね」

長谷川を睨み、

「そんな人の自分勝手な考えや、行動が…犯罪を生み、被害者を増やす。犯罪とは、こんなやつらがいるところで発生するんだよ」

幾多は、乗客を見回した。

長谷川は、正論に聞こえる幾多の言葉に、虫酸が走った。

そんなことを偉そうにいう幾多の手には、

人を刺したナイフが握られているのだ。


「君のいうことには、筋が通っていない」

長谷川は、自分と同じ歳くらいの幾多に、

何とも言えない恐ろしさを感じていた。

さっきまで、拘置所であった犯罪者よりも、異質な感じを受けていた。


しかし、逃げる訳にはいかない。

なぜなら、前に立つような人間と話せるのは、

この中では自分だけだからだ。



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