二択
「まったく!その男はどうなってもいいけど!あの子どうすんのよ!」

陽子の怒りはおさまらない。

「明日!あたしも行くからね!」

と言うと、ブチッと電話が切られた。

少し耳鳴りする耳を気にしながら、あたしはベッドに倒れ込んだ。


今はショックで、何も考えられなかった。

「薬か…」

自分には、遠い世界だと思っていたのに。


疲れているのに、あたしはしばらく眠れなかった。





次の日。

あたし達のランチに乱入した陽子は、こっぴどく翠を叱った。

「大丈夫だって!心配しすぎ」

「そんな男!やめろ!彼女に、薬やらすなんて最低だよ!」

どんなに陽子が言っても、別れる気はないらしい。

「だって…他の誰よりも優しいよお」

うっとりと恋する乙女の目になる翠に、埒があかないと思った陽子は、翠の携帯を取り上げると、強引に雄大に電話をかけた。

仕事中だとしても関係ない。数秒後、通じた雄大に、陽子は、話しだした。

「もしもし~突然すいません。あたし!翠の友達ですけど…」

陽子は単刀直入に言った。

「あんたらのことに口出ししたくないけど…あたしの友達に薬をやらすな!絶対やらすな!今度吸わしたら、ぶっ殺すからな!」


警察に何度も捕まってる相手に、よくそんなタンカがきれるなあ~と、あたしが感心していると、陽子は携帯を切った。


「はい!」

携帯を突き返す陽子に、翠は膨れっ面で言った。

「いい人なのに…。もうちゃんとやめて、働いてるのにさ。ハシシだって…あたしが…吸ってみたいって…」

その言葉に、陽子はキレた。

「あんたね!」

テーブルを叩き、立ち上がった陽子が、何度注意しても、翠には通じていない。

それが、恋してるってことだし…。

あたしもあの雄大が薬をやってるなんて、信じられなかった。
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