二択
しかし、裕子と三人のやり取りは犯行当日の3日前が、最後となっていた。

その代わり、綾と奈都子のやり取りは頻繁になっていた。

そして、裕子のアドレスに何度もメールを送る町田の履歴は、残っていた。

その事実が、長谷川を悩ませた。

町田と裕子の関係も疑ったけど、裕子は犯行当日の何日か前から、町田にメールを返した形跡はない。



悩みながら、長谷川は気になることを思い出した。


どこかに真実への糸口を見いだすかもしれない。


長谷川は、裕子がいる部屋と向かった。

鑑識から戻して貰った二つの証拠物を持って。

それは、携帯電話だった。

機種も、会社も違うが…二台の携帯につけたストラップだけが、色違いだが、デザインは同じだった。

貝殻でつくった手作りのストラップ。



部屋の中央…ディスクの前で、俯く裕子の前に座った長谷川は、すぐに説明しだした。

「突然ですが…あなたにゲームをして頂きます」

そして、長谷川は二台の携帯電話をディスクの上に置き、

「今から、私が出す質問に、どちかが当てはまるか…選んで頂きたい」


裕子は、長谷川の顔を見ることなく、二台の携帯に目を落とした後、少し微笑んだ。

その表情の変化に、長谷川は眉を潜めた。

「先生…。先生でよろしいのでしょうか?」

裕子は顔を上げ、長谷川を見た。その潤んだ瞳に、長谷川は息を飲んだ。


(これは…)

それは、悲しみよりも、まるで恋する乙女が、一つの恋の終わりを受け入れた…そんな瞳が流す涙。長谷川は、場違いな涙に、少し驚いてしまった。


「ええ…。先生で、構いませんが…」

少し戸惑いを出してしまった長谷川に、裕子は微笑みかけると、また二台の携帯に目をやり、

「あたしには…その質問は、無意味です」

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