二択
「無意味とは?」

一瞬で、表情を整えた長谷川は、裕子にきいた。

裕子は微笑みながら、

「先生が、これをあたしに見せるということは…知ってらっしゃるということですね。だけど今のあたしは、どちらも選びません」

裕子は、二台の携帯を見て、懐かしそうに目を細めた。

「鹿島さん?」

「このストラップは、あたしは作ったんですよ。2人に…分け隔てなく、愛情を注いでいたから…」

長谷川は、裕子の今の言葉が、引っ掛かった。


「愛情…?」

長谷川の呟きに、裕子は顔を上げた。

「はい」

その力強い返事に、長谷川は裕子の真実を知った。

「あ、あなたは…」



裕子は、二台の携帯を長谷川の方に、指先で押し返した。

「あたしは、2人を愛してました。1人なんか、選べなかった。学生の頃から、ずっと…。だけど、ずっと続くなんて、思ってはいませんでした」

「…」

長谷川は、ただ裕子の話を聞くことにした。

「それなのに…あの2人は…あんな…どうしょうもない男に、引っ掛かって…取り合って」

その時、裕子の瞳に浮かんだ怒りの色を、長谷川は見逃がさなかった。


「あの男…。あたしにも、すりよってきたんですよ」


「だから…メールを送り、2人が争うように仕向けたと?」

長谷川の言葉に、意外そうな顔を向けた裕子は、しばらく長谷川を見つめた後…笑った。


「先生は…女について…女の深さについて、理解されていませんね」

「と、言いますと?」

長谷川は、もう表情を変えなかった。これくらいで、心は動じない。今からが、本番なのだ。



「あたしは…ただ、あの子達に、警告をしただけ…やめておいたらと、あんな男。だけど、あの子達は、もう虜…。あの子達が、燃え上がる程…あたしは、さめていったんです」


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