二択
裕子は、もう長谷川を見ていない。

一度返した携帯電話を一台づつ、手にすると、

「メールを2人と交互にしていたのですけど…わかるんですよ。彼女達が、狂っていくのを…。友達なのに、相手を疑い…自分が愛情を注いでいる恋人をとられるんじゃないかと…。疑いが、憎しみを…そして、幻想を生んでいく」

冷静に話す裕子を、ただ長谷川は見つめた。


「そうなったら、あたしの言葉など聞きません。それに、2人が惚れた男は、最低でしたらから…」

裕子は口元を緩め、

「あの2人の想像通りの結果になった」


「なるほど…」

長谷川は、裕子に浮かんだ喜びの感情に気づいた。


「だけど…彼女達を、真剣に止めることはできたのでは?お二人は、友人であり…特別な感情をお持ちだったはずでは?」

「だから、先生は女をわかっておりませんわ」

裕子は手にしていた携帯電話を、落とすように、ディスクに置くと、

「友達なら…最後まで、付き合ったかもしれませんが…あたしは、愛情。さめた相手のことは、もういいんですよ。それに、あたしには…」

「鹿島さん…」

「あたしは、最初から、2人と結ばれるとは、思っていませんでした。長い付き合いですから…それは、わかっていました」

裕子はそう言うと、長谷川を見、また微笑んだ。

長谷川は、目を見開いた。

「先生…。あたし…好きな人が、できたんです。会社の後輩なんですけど、かわいいんですよ」

裕子の嬉しそうな顔に、

「その方は…」

きこうとした長谷川を、裕子は睨んだ。

「女よ」

裕子の強い言い方に、長谷川は口を閉じた。

「いけない?」




「いえ」

「あたしは、男を好きにならなくちゃいけない…理由がわからないわ」

「そう…ですね。人を好きになるのは、自由です」

長谷川は否定しなかった。


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