二択
二台の携帯電話を残し、部屋から去った裕子。



長谷川は、大きく息を吐いた。


去る前に、長谷川は気になっていたことを、裕子にきいた。

「3人とも、メールが消されてましたけど…。それについてはなぜですか?」

長谷川の質問に、裕子は笑った。

「疑いだしたら…見るでしょ…携帯。だから、後ろめたかったんじゃないですか?あたしは、違いますよ。何でしたら、あたしの携帯をお貸ししますけど」

警察は、裕子の携帯に残ったメール内容を確認した。

すべて残っていた。

まるで、見られることを想定していたかのように。

警察が確認する間…裕子はただ微笑み続けていた。ディスクに戻ることはなく、長谷川に向かって笑いかけていた。





携帯電話を返して貰うと、裕子は静かに頭を下げ、帰っていった。来た時よりも穏やかな表情で。



「先生…。やはり、彼女がそそのかしたのですか?」

代わりに部屋に入ってきた刑事の言葉に、長谷川は首を横に振った。

「彼女がやったことは…教唆犯にもあたりませんし…扇動罪にもあたらないでしょう」


しかし…。

長谷川は、カウンセリングを裕子に行いたいと思った。

だけど、その思いを、長谷川は口にしなかった。

彼女が望んでいない。


それに今の会話が、結局はカウンセリングのようになってしまった。




先生は、女を知らない。


その言葉だけが、長谷川に残った。

常識的にいったら、女が女を愛するのは、おかしいだろう。

(しかし…今は、自由だ)

そう思い、そうすることも。

だが、

それを相手が、受け入れるかも…自由だ。




end。


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