二択
「私に、無理にあなたを診る義務はありませんので…」

長谷川は慇懃無礼に、頭を下げた。



「お、お金の問題なの!みんな!みんな!お金が大切なの!」

突然取り乱し、体勢を変え、両手を床につけて叫ぶ結花理を見て、長谷川はノブから手を離すと、結花理に体を向けた。

「お金は、大切ですよ。だけど、それは手段であって…お金そのものではありません」

長谷川は結花理に近づくと、そっと肩を手を置き、座ることを促し、自分も腰を下ろしていく。

「答えて頂けますか?私の質問に」

ゆっくりと、腰を下ろした結花理は頷いた。

「…はい」

長谷川は微笑み、少し結花理の精神が落ち着くのを待ってから、口を開いた。

「わたしの質問に、どちらと思うかで答えて下さい。つまり、ニ択です」

結花理はコクりと頷いた。

長谷川も頷くと、最初の質問を口にした。

「ここにある大量の鞄や服は、あなたに必要ですか?」

「必要です」


長谷川は目だけで、鞄をチェックすると、

「同じデザインのものもありますね。あなたはまた、鞄を買うのですか?」

「はい…多分」

結花理は少し…視線を落とした。

その表情の変化に、長谷川は気付き、

「鞄が好きなのですか?」


「いいえ」

結花理は、首を横に振った。

長谷川は目を細め、

「それは、服もですか?」

「好きなのもあります…」


「そうですか」

長谷川はここで一旦、質問を止めた。

深く理由を聞くこともできたが、それはやめた。そこに答えはあるが、それを無理矢理問いただしてはいけない。

長谷川の目に、包帯が巻かれた小指を見た。右も左も巻かれている。

(彼女は…自分の理由を知っている。だけど…やめれない)

どうして、やめないのかときいたら、彼女をさらに追い込むことになる。

(今、鞄や服のことを追及するのは早い)

長谷川は、話題を変えることにした。
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