二択
話題を変えようにも、医者と名乗ってしまった為、迂闊にはできない。

無駄な買い物をするな!本当に必要なものだけを買いなさいと、口にした瞬間に、すべては終わる。

彼女はわかっているからだ。

指を折る行為は、自分への嫌悪感。

戒め…。



長谷川の目は、知らず知らずのうちに、結花理の小指にいってしまった。

至近距離だったこともあり、長谷川の視線の先を結花理は気づいてしまった。


「ああ…これですか?」

結花理は笑顔になると、包帯が巻かれ、倍以上の太さになった小指を、長谷川の目の前に持ってきた。

「…」

いきなりのことで、長谷川は言葉がでなかった。

目を見開いた長谷川の表情に、結花理はクスッと笑うと、

「これは…ですね」

結花理は固定された両手の小指を、左右にスライドさせておどけてみせた。

そして、笑いながら、こう言った。

「小指って、小さくて脆そうじゃないですか。他の指が太いのに…細くって、どうしてこんなんなのかな?だから、壊したくなるんです。その方がいっそ…楽にしてあげれそうで…」


長谷川ははっとした。

結花理の今の言葉で、理解できた。


(やはり…この子は)

長谷川は一瞬目を瞑ると、すぐに開けた。

その一瞬で、長谷川の表情も、雰囲気も変わった。


「結花理さん。あなたに質問します。今と過去…好きなのは、どちらですか?」

結花理は小指遊びを止め、じっと長谷川を見つめると、首を傾げた後、

「どちらも、好きじゃないです」

と答えた後、また少し考え込み、

「もしかしたら…産まれた直後は、好きだったかも!幸せだったかも…」



「あなたは…」

産まれたばかりを想像し、屈託のない笑顔を浮かべる結花理に、長谷川は顔に出さなかったが、心の中で涙を流していた。

「未来は…好きですか…」

無意識に出た言葉は、二択ではなかった。
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