二択
「未来…」

その言葉を聞いた瞬間、結花理の瞳から輝きがなくなった。

「そんなもの…ありません」

長谷川から顔を逸らした結花理の目に、光が戻ったと思ったが、

それは少し滲んだ涙だと気付いた。

「結花理さん…」

仕事場では一度詰まったことのない長谷川の言葉が、続かない。



「先生」

少し戸惑ってしまった長谷川の一瞬の間に、結花理の瞳から涙は消え、ただじっと顔を凝視していた。

「先生…。先生は、どうなんですか?未来なんて、不確かなものが好きなんですか?好きなんですか?」

問い詰めるような結花理の口調に、長谷川は少し驚いたが、心の中で苦笑した後、逆に冷静さを取り戻した。

「好きですよ」

「どうして!」

即答した長谷川に、強い口調で結花理はきいた。

「どうして!未来なんてあるかもわからないし!辛いことが続くだけかもしれない!ずっとずっと辛いだけかもしれないのに!」

「結花理さん」

長谷川の言葉を無視して、結花理は話続けた。

「だって!よくなる要素がないから!このまま続くの!あたしは、このまま苦しむの!だから、楽になるために」

「買い物で紛らしていたと」

「え…」

結花理の言葉が止まった。

長谷川は、部屋中の溢れたものを見回しながら、

「買い物に依存し、誤魔化してきた。だけど…もうお金がなくなり…買うこともできなくなった…。だから、次は…」

結花理の小指に、視線を落とし、

「自らの小指をへし折った」

「!」

結花理は思わず、両手を背中の後ろに隠した。

「次は、どうする気ですか?」

長谷川は、結花理の目を見つめた。

結花理の目が、大きく見開かれると、きりっと長谷川を睨んだ。

「死ぬしかないわ」




「いや…」

結花理の言葉を、長谷川は否定した。結花理から目を離すことなく、力強い口調で、肯定の言葉を吐いた。

「あなたは、死ねない。いや、死ぬ気はありません」
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