二択

偏見

少し騒然としている廊下を、長谷川正流は歩いていた。

まあ…学校の廊下など、こんなものだろう。


別段、気にも止めなかったが、足は無意識に速まっていた。



「そんなに急いで、どこにいくんだい?秀才君」


前だけを見て、人をただの障害物とした思わないようにしていた長谷川は、すれ違った1人の障害物に、声をかけられた。

そのおどけた口調と、秀才という言葉が、長谷川にその障害物を、特定の人物へと認識を変えさせた。


足を止め、振り返ると、にやにやと口元を歪めた男が立っていた。


「中西…」


中西は笑みを残したまま、長谷川に言った。

「今日も、あの昼行灯のとこにいくのかい?物好きだねえ」

「…」

中西の馬鹿にしたような口調にも、長谷川は怒ることはなかった。

この男は、こう言うやつである。

ただじっと、自分を見つめる長谷川に、中西は笑みを止めて、同じく見つめた。

ほんの数秒だが、見つめ合った後、中西は口を開いた。

「お前が、考えている…いや、印象付けている俺を理解しているよ。だけどな」

中西は肩をすくめ、

「自分でも、そんなやつと思っていたが…違うようだ」

そう言った後、また長谷川の目を探るように、見つめ、

「お前は…秀才だ。俺と同じくらいの。だがな…お前は、自分の裏側を知らない。ククク」


中西は声を出して、笑いだした。

「アハハハハ!」

ひとしきり、腹をかかけて笑った。廊下を行き交う学生たちが、訝しげに中西を見た。

「アハハハハ……」

次第に、笑いは終息し、

中西は睨むように、長谷川を見た。

また数秒…いや、もっと長い。

やがて、中西はゆっくりと長谷川に背を向けた。

「精々…頑張れや」

手を上げると、そのまま中西は振り返ることなく、歩き出した。

< 38 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop