二択
中西が学校を辞めたと、聞いたのは2日後のことだ。

彼が交際していた…いや、遊んでいた女性が、数日前に死亡していた。集団暴行により。

目撃者の証言により、犯人グループはすぐに特定され、捕まった。

そして、さらにわかった事実は、暴行された当時…被害者の女性は、男性といたことが確認されており、

犯人グループの供述と、被害者の襲われるまでの足取りを調べたところ…

いっしょにいたのが、中西大和であることが確認された。

中西は、女性を見捨て、逃げ出したのだ。


普段の彼なら、エリートである自分が生き残る為の手段として、単なる遊び相手がやられる間に逃げたことを正当化していただろう。

しかし、彼は良心の呵責に苛まれたのだ。

自分でも、予想しなかった罪の意識が、彼が望むエリートの道から、外れさせたのだ。




その日は、そんな事実を長谷川は、知ることもなかった為、中西の影ある後ろ姿を見送った。

少し、中西と話をしたくなったが,長谷川は先を急ぐことにした。


そして、さらに数日後、長谷川は、中西が自殺したことを知ることになる。






「失礼します」

少し古びたドアを開けると、まるで古本屋の倉庫のように積み上げた書類に囲まれたディスクの向こうで、眼鏡をかけた初老の男が、顔を上げた。

髪の毛はすべて、白くなっていたが、顔はまだ老けてはいなかった。

「また…君か」

少し呆れたように、長谷川に言うと、初老の男はまた顔を下に向けた。

「たまには、みんなと外に出たらどうだ?本やレポート…私のような世捨て人と話しても、仕方ないだろうが」


「いえ…そんなことは、ありません。私は、先生を尊敬しております。先生が、昔書かれた“人の尊厳”は素晴らしい本でした。感銘を受けました」



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