二択
「どうしてですか?」

取ったカードの絵柄を見ずに、あたしの瞳の奥を覗こうとしているように感じる長谷川の質問に、あたしはなぜか素直に答えた。


「昔は、太陽が好きだったんですけど…どうしてでしょうか?今のあたしには、眩し過ぎて、月の明かりの方が柔らかい感じがします」

「そうですか…」

長谷川はまたノートに、ペンを走らせながら、

「先ほどの質問を繰り返します。家庭とは、太陽ですか?それとも、月ですか?」

「それは勿論…」

あたしは自然に笑顔を浮かべながら、太陽のカードに手を伸ばした。

しかし、机の上にあるカードを手に取った瞬間、

カードはあたしの手から、零れ落ちた。

「あらあ…すいません。どうしたのかしら?」

何度も取ろうとするけど、あたしは取れなかった。


「もうわかりましたので、取らなくて結構です」

長谷川は、冷たく言い放つと、次の質問をした。

「太陽という理由は、どうしてですか?」


あたしはなぜか…カードを取ることに拘っている指先を見つめた。

じっと見つめていると、自然に指は諦め…机の上から下に落ちた。

太陽の絵が書いてあるカードを、見つめる視線だけが、諦めなかった。

自然と口が動いた。

「太陽って、掴めないじゃないですか。真上にあって」

切なくカードを見つめ続けるあたしに、

「それは、月も同じではありませんか?」

「あっ!そうですね…だけど」

長谷川の言葉に、あたしはフッと笑い、

「太陽は熱過ぎます」


「そうですか…」

長谷川は、走らせていたペンを止めた。


音楽が止まった。

だけどすぐに、再び同じ曲が始まった。

長谷川はしばらく、あたしを見つめた後、

質問を続けた。


「明るいのは、太陽ですか?月ですか?」


他愛のない当たり前の答えしかない質問が、しばらく続いた。

そんな時は、長谷川はノートに書き込むことをしなかった。


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