二択
「私は自分の信念を変えることが、できなかった。当時犯人であった少年を、責めることができなかった。例え、産まれたばかりの孫が、殺されてもだ!なぜなら、私は今まで、このような事件にあわれた遺族を傷つけてきたからだ!」

坂城は、ディスクの向こうから、長谷川を睨むように見、

「そして、少年の無罪を勝ち取った。罪に、とうことができないとして!しかし、その結果…私は、君の妹さんの命を奪うことになってしまった。申し訳ない」

坂城は、頭を下げ…そのまま動かなくなった。

ただ全身を震わせ、

「私は、自分の信念に従った!そのことで、妻も娘も私から、離れた。それは、仕方ない。だけどだ!時がたつ度に、信念に従ったはずの私の心にふつふつと、わき上がってくる感情が生まれ…大きくなった」

坂城の目から、涙が流れた。

「殺意だ!」

坂城は、ディスクを叩き、

「殺意を抑える為、知り合いの誘いもあり、私は弁護士を辞め、この学校で働くことにした。書物やレポートで時間を潰し、自分を閉じ込める為に!」


「先生」

近づこうとした長谷川を、坂城は手で制した。

「そんな時、やつから、電話があった!私に会いたいと!私は思った!チャンスだと!孫を殺したあいつを殺せると!本当は、抑えることなどできるか!許すことなど、できるか!やつは、私の孫を殺したのだ!!」

そう叫んだ後、坂城は突然、苦しみだした。顔をしかめながら、

「しかし、そんな私の思いも、やつはお見通しだ!また、私の周りで、殺人を起こし、私に弁護を頼む!狂ったように、演じて!ぐは!」

突然、坂城は血を吐き出した。

「先生!!」

制止し振り切り、長谷川は坂城に近づき、絶句した。

坂城は自分で、腹を切っていたのだ。

「私は、今も死刑は反対だ!人が、他人の命を奪ってはならない!ならば…残った手は、これだけだ!罪を償うには」


「な、なんて馬鹿なことを!」

「わ、私は、ずっと思っていた。人が、人を殺すのは、憎しみや貧困…己が生き残る為に仕方なく…そんな理由だと思っていた!」

坂城は、長谷川の腕を掴み、

「違うのだよ!やつは…やつらは!人を殺すことは、ゲームなのだよ!単なるゲームなのだよ!」



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