二択
「罰を与える警官も、簡単に罪を背負える。そんな単純な心理で、真実は見いだせない」

幾多は大袈裟に、首を横に振った。

「貴様!」

長谷川は何とか動こうとするが、出血多量の女が気がかりで、邪険にどかせられない。

「特別に、教えてあげるよ」

幾多はゆっくりと、銃口を長谷川に向けた。


「罪も罰も!意識も無意識も、関係ない!人の真理は、生と死だけだ」


「幾多!」

「僕は、生と死しか…選ばさない。所詮、罪も罰も…人の感情も、すべて生ある中に存在するもの。僕には、分類する意味もない。ただ…生きるか、死ぬかだよ」

冷たく言い放つ幾多に、長谷川はキレた。

「生きるか死ぬか…人は、そんな単純ではない!」


「下らない…」

幾多は引き金に指をかけ、

「君の口から、そんな言葉…聞きたくなかったよ」



「幾多!」

長谷川は視線を幾多に向け、目を逸らすことはない。






「馬鹿らしい…」


幾多は、銃口を下ろした。

そして、長谷川に背を向けると、

「君がいつまで、そんな下らないことを言えるのか…楽しみにしてるよ」

歩き出した。

「幾多ああ!」

長谷川の絶叫に、幾多は足だけを止めた。

「残念だけど…殺してあげないよ」

幾多は、女に撃たれて死んでしまった男に目をやると、

「君は、死んでもいいと思ったからさ」

近づき、腰を下ろした。


そして、体をまさぐると、上着の内側に銃を発見した。

「最後の選択は、僕に決定権がある。それが…」

幾多は、男の銃を左手に持つと、

「僕のニ択だ」

また歩き出した。


「さて〜」

幾多は大きく欠伸をすると、

「帰るかな」

部屋を出た。





「幾多あああ!」

長谷川は足を掴んでいる女を振りほどいて、立ち上がろうした。

力を入れたが、簡単に立ち上がれた。

女は笑顔のまま…絶命していた。

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