二択
誰もが、聖女ではない。


哲郎は関係を持つことで、茜を彼女と思い、

さらに、つくすようになった。

しかし、度が過ぎたのだ。

それに、店や周りの評判もよくない。

だから、切り捨てた。


そして、大毅を選んだのだ。


(ふぅ…)

長谷川は心の中で、息を吐いた。

まだ興奮している哲郎を見つめた。


その瞳の奥には、憐れみがあった。


しかし、

人を2人も殺した男に、憐れむ場合ではない。


長谷川は、立ち上がった。


すると、後ろのドアが開き、2人の刑事が部屋に入り、興奮している哲郎を取り押さえた。

二枚のカードを手に取ると、長谷川は哲郎に頭を下げ、部屋を出た。


「先生、どうでしたか?」

廊下に残っていた刑事が、長谷川にきいた。


「少し興奮していますが、彼は正常でしょう。少なくとも、嫉妬している。そして、2人を刺した。男性の被害者は一度…女の被害者には、何度も。彼は、2人の違いを認識していた」


長谷川はそれだけ報告すると、刑事に頭を下げた。


「詳しくは、報告書にまとめて、提出しますので」




長谷川は刑事から離れ、灰色の廊下を闊歩した。

背筋を伸ばしながら、前を向いて。


(薬物は、使っていない。精神的に幼稚だが、おかしい訳ではない)


単なる嫉妬だ。



もし、

恋愛が麻薬だとしたら、

誰もが狂うだろう。


しかし、それは自己の中で、治さなければならない。

自分の心で。



男は女を抱いて、自分のものになったと、

完結した。


しかし、女はそれから始まり…吟味して、

彼との関係を終わらした。

哲郎は、茜を彼女として、新たな関係が始まると思っていた。


茜は、よりよい方の男を選択しただけだ。

哲郎の選択は、終わっていた。


彼は、茜を諦めることができなかった。

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