【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
「早速ですが、こちらの書類を確認していただけますか」
万里小路氏が差し出した用紙には「婚前契約書」という表題が付いていた。
今夜「両家」が揃って招待客に「お披露目」し、あたしたちは正式に「婚約」したのだ。
これから先「結婚」へ向けて、一気に突き進むこととなる。
書類を受け取ったあたしは、章分けされてそれぞれ第一条から成る条項を読み進めていった。
——だけど……
あたしの乏しい脳細胞では、これが自分自身にとって有利なのか不利なのか、さっぱりわからないんですけれども……
条項が終わると甲・乙の署名欄を経て、最後に作成者として「進藤綜合法律事務所・弁護士 進藤 光彩」という名前が記されていた。
(ちなみに、所在地にはベリーヒルズビレッジ内のオフィスビルが記載されていた)
「私の知人の弁護士に依頼しました。
進藤弁護士は民事専門で一般企業の法務関係のコンサルを行う傍ら、ライフワークとして女性問題にも真剣に取り組んでいる方なのでご安心ください。なので、私よりもあなたの立場を尊重する形での作成をお願いしました。
それから、この件に関しては、そもそも私の方からの申し出のため、作成にかかる費用については、とうぞご心配なく」
「あ、ありがとうございます」
あたしは礼を言って頭を下げた。
——指輪のこととか、案外この人は気前がいいなぁ。
職業柄、お金持ちのすべての財布の紐が緩んでいるとは限らないことを知っている。
「そういえば、彼女から『この前も、契約結婚に関する書類作成を頼まれたんだけど、今流行ってるの?』と尋ねられたのですが……
もしかして、世間では流行っているんですか?」
ふと、万里小路氏から真顔で訊かれる。
「さ、さあ……?」
そんなの知らない。そうなのだろうか?
少なくとも、あたしの周りではあたし自身が「初めて」だ。
婚前契約書の下には「婚姻届」があった。
臙脂色の文字で印刷された「現物」を、生まれて初めて目にした。
さすがに……ドキッと心が跳ねた。
そして、すでに婚前契約書の「甲」にも婚姻届の「夫となる人」の欄にも、万里小路氏の自筆で埋められていた。