【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
急いで店内に戻る。
これからみんなで手分けして、レジの精算・売上やクレジットカード処理などの伝票確認・本部へ業務日報を送信したあと、店内の展示物を拭き、ジュエリー類を金庫にしまい、空になったガラスケースをぴかぴかに磨き終われば(我が社の女神・久城 礼子が妖艶に微笑んだ特大パネルは特に念入りに)今日の業務は終了である。
ようやく業務を終えたあたしは、店の奥にあるスタッフルームに入り、パーテーションで仕切られた向こう側にある更衣室へと向かった。
「小林さん、おつかれさま。お先に」
「あ、おつかれさまです。お気をつけて」
ほとんどが既婚者である先輩たちは、業務を終えるとあわただしく帰っていく。
Jubileeは、子どもが生まれても産休・育休をしっかり取って職場復帰できる体制が同業他社よりも整っていると聞く。
——なんとか、いつもどおりに振るまうことができたかな?
自分に割り当てられたロッカーの前で手早く黒の制服のワンピを脱いで私服に着替えながら、そっとため息を吐いた。
同じ遅番のシフトで入っていた先輩たち——このベリーヒルズビレッジ店ではあたしが最年少なのだ——には、たぶんあたしの「異変」は気づかれていないだろう。
普段は気軽におしゃべりできる「同僚」がいてほしいな、と思っていたが、今となってはちょうどよかった。
「店長、お先に失礼します」
スタッフルームを出て店内に戻ると、河上店長が施錠前のチェックをしていた。
「あ、小林さん、おつかれさま」
店長がチェックリストから顔を上げる。
いかにも「仕事に生きる」といった風情の彼女は、典型的な独身のバリキャリだ。
そして、あたしの新人研修時代の教育係だった人なので、実は今でもちょっと苦手だ。
あたしは軽く会釈をして、店舗を出た。