【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
この先どうなるかわからないけれど、今のところ彼氏らしき人は影も形もない。
——っていうか、大学時代からつき合ってた人と一昨年別れたっきりだ。
しかも、今働いているのは女性ばかりの職場なので、そうそう「出会い」が期待できるわけではない。
——先輩たちにだれか良さげな人を「紹介」してもらう、っていう手もあるけど、もし合わない人だったらなぁ。
気を遣って断れなくなってしまうのはイヤだ。
それに、今のあたしは、昨日までのあたしとはすっかり変わってしまった。
——これからは、あたしの「お金目当て」に近づいてくる人もいる、のかもしれないなぁ。
この際、ブレずにしっかりと人生の足固めをするべく、きちんとした住居を構えるのが賢明なような気がした。
海老の天むすを咀嚼しながら、あたしはふと、目を上げた。
ショッピングモールの対角線上に、森と見紛うような木々に囲まれた五階建てほどのレジデンスが見える。
一戸数億円はするという、いわゆる「億ション」だ。
もちろん、二十四時間コンシェルジュが常駐していてセキュリティはばっちりだと聞く。
昨日、中谷氏からもらった冊子を読みながら考えてみたのだが、あたしはやはり宝くじに当たったからといって仕事は辞めることなく、このままできるだけ続けようと決めた。
自分の労働力が対価となって金銭が発生するという「普通」の感覚を、忘れたくなかったからだ。
なんだか、そんなあたりまえの感覚が損なわれるにつれて、却ってじわじわと「しあわせ」が遠のいていく気がしたのだ。