【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
これまた大橋氏によると、あたしが内覧した部屋の所有者は、世が世なら子爵家であらせられる旧華族、 万里小路家の一員だという。
このたび遺言状による相続によって祖父から譲り受けたということだが、三〇歳半ばになるという彼はまだ「独り身」だった。
管理組合の理事長をはじめとするお偉方は、名門出身の彼のことを生まれたときから知っていて、まるで「親戚の子」の感覚らしく、現在は「特例」として扱われているというのだが……
『やっぱりほかの居住者さまたちの手前、かなり急かされているみたいで……
このままでは、せっかく相続されたあのお部屋が手に入らなくなる恐れが出てきましてね。
万里小路さまは、結婚して「妻」となった人から経済的に依存されるのは困るから、あの部屋の半額を払えるほどの財力のある女性であれば、どなたでもいいとおっしゃって、一刻も早く入籍して既婚者になり「権利」を得たい、とのことです』
そう説明する大橋氏は苦笑していた。
『あの……そのようなご立派なお家柄の方でしたら、すぐにでも「お相手」が見つかるんじゃないですか?』
不思議に思ってあたしが問うと、
『あ……あの人は……ちょっと……』
大橋氏が言いにくそうに口ごもった。
あたしは察した。
——これは、「彼自身」が「難あり物件」かもしれない。