【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
「……小林さま?」
テーブルの向こうの中谷氏が、あたしの顔を覗き込んでいた。
「どうかなさいましたか?……スペイン料理はお口に合いませんでしたか?」
あたしは、目の前で手を高速で振った。
「い、いえいえ……美味しいですっ、すっごく!」
知らぬ間に、意識をラララ星方面へとトリップさせていた。
「それで……その方と、結婚されるおつもりですか?」
中谷氏には、この結婚が恋も愛もない……ただお互いの利益が合致するだけの、形だけのものになるであろうことを、すでに説明していた。
「正直、迷ってて……どうしていいのか、わからないんです。
いくら、あのレジデンスで住めるからといっても……いくら、『白い結婚』であっても……」
——そうなのだ。
いくらなんでも、会ったこともない人といきなり「夫婦生活」をするわけにはいかないから、もし結婚したとしても「シェアハウス」のような感覚で「同居」することになっている。
「やっぱり……見ず知らずの人と結婚して……
一緒に暮らすのは……」
顔を曇らせたあたしは、目を伏せた。
「そうですよね……」
中谷氏も表情を陰らせて、テーブルの上で指を組んだ。
店内のオレンジ色の照明が、彼の左手薬指のシンプルな指輪に反射する。
——あ、そうだった。
この男は結婚している人だった。
中谷さんの奥さまって、どんな人なんだろう?
こんな、やさしくて頼りになる男がダンナさまだったら、幸せだろうな……
そのとき、心にふと……ある思いが舞い降りてきた。