【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)

「あ、職場ではつい……すいません、仕事ではなくて自分のことなのに……」

地獄の新人研修で叩き込まれた「習性」だった。

「いえ、少し新鮮だったものですから言ってみただけですので、どうぞお気になさらずに。
……では、デザインはどのようなものを?」

まるで、彼の方が販売員のように滑らかに尋ねてくる。

「そうですね……」

あたしは一つのリングをベルベットのホルダーから抜き取った。

ラテン語で「絆」という意味の「Vincula」と名付けられた、その名のとおり「結びつき」を感じさせるデザインだった。
それでいて、すごくシンプルでどんなスタイルでも合いそうなのだ。

仕事柄、今までシーズンごとにいろんなブライダルコレクションを見ては来ていたが、正直なところ素敵だなとは思っても「自分のマリッジに」と思ったことは一度もなかったのだが……

「いいですね、その指輪。
独創的なデザインなのに、普遍的にも見えますし、ダイヤモンドが効果的に配置されていますね。
デザイナーの久城 礼子氏は、すばらしい才能の持ち主ですね。
……指につけてみてください」

中谷氏に最大級のお褒めの言葉をいただき、あたしは左手薬指に、そのVinculaをつける。

自分の号数(サイズ)は熟知しているので、ぴったりだ。
そして、思ったよりもずっとしっくりと指馴染(なじ)みがいい。

あたしは卓上鏡を手元に引き寄せ、自分の左手を映してみた。

——うん、プラチナでも悪くない。
それに、手や指とのバランスもちょうどいい。

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