【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)

「中谷さん、あたし……このリングにします」

Vinculaを見つめながら、あたしは告げた。

「小林さま、とてもよくお似合いですよ」

——この人の方が、ジュエリーの販売員に向いているかもしれないなぁ……

思わず、肩を竦めて苦笑する。


「ところで、婚約指輪はどちらにありますか?」

中谷氏がベルベットのホルダーのリングを見て首を(かし)げる。

——婚約指輪?

一転して、あたしは間の抜けた顔になった。

「えっと……購入するのは、結婚指輪だけなので……」

「どうしてですか?」

中谷氏から、犬のような邪気のない目で尋ねられる。

——いや、どうして、と言われても……

「失礼ながら、ご結婚されてあのレジデンスにお住みになるということは、これから先なにかとパーティなどに招ばれる機会が生じますよ。
そのときに、婚約指輪が必ずお役に立ちます。
もし、その都度アクセサリー類をご用意されるのが面倒でなければ、別に構いませんが……」

——ええっ、パーティ⁉︎

「富裕層のパーティは、欧米式に夫婦をはじめとするパートナー同伴が原則です。
もし、妻の身なりがその場にふさわしくなければ、夫が恥をかくことになりますよ?」

——うーん、「夫」はほとんどニートなヒッキーのはずなんだけど?

でも、お金持ちの「社交界」のことだ。
もしかしたら、結婚すれば否が応でもそういう場に夫婦で引っ張り出されるのかもしれない。

「結婚指輪にはふつう、婚約指輪が同じシリーズであるはずですよね?
華やかな場で映えるように、重ねて使えるデザインになっていますよね?」

あたしは肯いた。

——さすが、既婚者。よくご存知で。


「そちらを持ってきてくださいませんか?」

< 55 / 136 >

この作品をシェア

pagetop