【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
「えっ……く、久城さん?
……い、いったい、どうしてこちらへ?」
突然のことにびっくりした河上店長は、あわててその美女——久城 礼子の許へと駆け寄った。
ほかの店員もギョッとした顔で彼女を見つめる。
彼女はわがJubileeの専属ジュエリーデザイナーであるが、銀座本店やデパートの販促フェアなどでは店頭に立つことはあっても、うちのような店舗に来たことは一度もなかった。
なので、あたしたち一般の販売員にとっては「雲の上の人」なのだ。
「ちょっと、小林さんに用があるのよ。
どちらにいらっしゃるのかしら?」
久城さんが、きょろきょろと辺りを見渡しながら尋ねる。
店舗の端にあるお客様を接客するためのブースの中でテーブルを拭いていたあたしは、おそるおそるブースから出た。
「あ、あの……小林はわたくしですが……」
久城さんの視線があたしに向かう。
「あなたが……小林さん?」
その視線が一瞬にして、あたしの頭から爪先まで走った。
すると、すぐさま河上店長に視線が戻ったかと思うと、
「河上ちゃん、悪いけど、この子早退させるわ」
と、きっぱりと告げた。
——えっ⁉︎
「く、久城さん、ちょっと今日は……
彼女、早退の申請を出しているんです」
河上店長が困った顔で返す。
「もちろん知ってるわよ。
……だから、わたしが来たんじゃない」
——はい?
あたしは間の抜けた顔で久城さんを見た。
だけど、それはあたしだけではなく、たぶん店舗内の従業員たちは全員、同じ表情だろう。
「とにかく、時間がないの。
小林さん、速攻で帰る支度をしてちょうだい」
「は、はいっ!」
有無も言わさぬ雰囲気に、あたしは思わず返事してしまった。
あわてて河上店長の方を見ると、彼女は困った顔のままで「早く行きなさい」とばかりに、ひとつ肯いた。