【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
あたしたちは、従業員たちがずらりと並んだお見送りでエステサロンを出たあと、今度は同じ階のヘアサロンでずらりと並んだ従業員たちによって出迎えられた。
「いらっしゃいませ。
久城さま、石井さま、本日もありがとうございます。お連れ様もどうぞこちらへ……」
店長らしき人が、奥へと案内してくれる。
ここにもサロンのような特別な部屋が設けてあった。
——ふうん……華絵さんは『石井さま』って言うんだ。
とはいえ、まだどこのだれだかはわからない。
部屋の中には、モデルか?と見紛うような長身のイケメンの男性が、にこやかな笑顔でマッサージチェアのような椅子の側に立っていた。
「及川くん、今日はこの子をうんと綺麗にしてあげてちょうだい。うちの社員でもあるのよ。
……これから、婚約パーティだということは聞いてるわよね?」
久城さんが話しかけると、彼はさらに笑みを深めて「もちろんですとも」と請け負った。
「彼は、映像や活字メディアなどで女優さんやモデルさんをスタイリングしているアートディレクターなの。だから、一般客は相手にせず予約を断ってるくらいの売れっ子なのよ」
フルネームがわかったばかりの石井 華絵さんが教えてくれる。
「イヤだなぁ、そんな高飛車なことなんてしていませんよ。ハードルを上げないでくださいよ」
アッシュグレーに染められた髪をくしゃりと搔き上げた彼は、眉を下げて困った顔になった。
「ご婚約、おめでとうございます。
及川 龍生と申します。以後、お見知りおきを。
……さ、どうぞ、こちらにお座りください」
彼に促されて、あたしはチェアに腰掛けながら、
「あ、ありがとうございます。小林 美々と申します。本日はよろしくお願いいたします」
と、自己紹介した。
——うっわー、やわらかな本革で、ふっかふかの座り心地だ。
「へぇ……あなた、『美々』ちゃんっていうのね」
華絵さんがぼそりとつぶやいた。