【コミカライズ】宝くじに当たってセレブな街で契約結婚します!(原題:宝くじに当たってベリーヒルズビレッジの住人になります!)
婚約パーティは立食スタイルで、盛大な乾杯で祝ってもらったあとは、おのおのが最寄りのテーブルで歓談していた。
その間を縫うようにして「ご挨拶」のために万里小路氏と二人で回る。
その中に、先日ショッピングモール三階のスペインバルで会った杉山氏がいた。
今日はカマーベストにタイを締めたバーテンダーの格好ではなく、彼もまたピークドカラーの黒いタキシードだった。
「本日は、ご婚約おめでとうございます。
今日はあのときのように『中谷さま』とお呼びしない方がよろしいみたいですね?」
彼はニヤニヤ笑いながら、手にしたシャンパングラスを目線まで上げた。
「婚約された方は確か……あのときの女性ですよね?
直仁さん、うちの店に女の人なんか連れてきたことなかったから、もしかして、って思ってたんですよ。それに、彼女には人が変わっちゃったみたいにやさしく微笑んじゃったりしてたから……
でもおれ、そのウソくさい笑顔で、生まれて初めて『翔君』なんて呼ばれて、思わず背筋がぞわぞわっとして、全身に鳥肌が立っちゃったんですよねぇ」
杉山氏の「客用」の丁寧な言葉遣いがどんどん崩れて、すっかり「自宅用」になった。
「うるさい、黙れ、翔」
万里小路氏が、ぎろり、と彼を睨む。
「あれっ、あのとき被っていたメタボ級の猫はもう脱ぎ捨てちゃったんですか?
じゃあ、こんな『素』の直仁さんも知ってて、受け入れてもらえたんだー。
へぇ……それはよかったっすね!
いやぁ、ほんとにめでたいな。
改めて、ご婚約おめでとうございます」
「……おまえ、もう酔ってるのか?」
万里小路氏のご機嫌が、悪化の一途を爆走している。
「まさか。このくらいで酔うわけないでしょ?
そんなことより、突然直仁さんから『婚約するから頼む』って連絡が来て、急遽このバンケットルームのセッティングと招待客への料理の提供を任されたんですよ?少しは労ってくださいよ」
——そ、そうだったんだ……
「このたびはご足労かけまして、申し訳ありません」
知らなかったあたしは、深々とお辞儀した。
「いやいやいや、いいんですよー。
この人の『勝手』は、いつものことなんでね」
杉山氏はあわてて言った。
「ただね……こんな情緒のカケラもない、やたらイヤミばかり言う人ですけど、根っこは悪い人じゃないと周囲の者は思いたいんですよ。
だから、どうか見捨てずに一生添い遂げてやってくださいね」
前半までは万里小路氏に対して言いたい放題ではあるが、最後は縋るように懇願されてしまった。
国内でトップシェアを誇るファミリーレストランチェーンの一族である杉山家とは、父親同士が学生時代からの親友だそうで、ずっと親戚のような付き合いをしているという。
——生まれたときからの「富裕層」って、みんなどこかでつながってるのねぇ……