はなうらない

カバーを外し、それを広げようとした。

「正武さん」

隣から声を掛けられる。
誰だろう、と知り合いの顔を想像しながら隣を見上げた。

「お久しぶりです」
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』

遣る瀬なく笑った顔。

「……八橋さん」
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』

無機質な音声が頭に流れる。

幻か、と自分の目を疑う。八橋さんは仕事帰りのワイシャツ一枚とスラックスで、特に大きな荷物は持っていなかった。というか、鞄ひとつ持っていない。

私が今、見たいと思った八橋さんの姿。

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