はなうらない

それを引き止める。
八橋さんがこちらを見た。

「俺、冷凍食品も禄に温められない人間だったんです」

……冷凍食品?

「大学のサークル合宿で、夜食に冷凍食品の炒飯あるじゃないですか。あれを温めるってなった時に、やり方知らなくて。というか電子レンジ自体ちゃんと扱ったことなかったんです」
「そんな人いるんですね」
「それで仇名が王子になりました」

これはただの思い出話ではなく、八橋さんの記憶だ。

「ずっと普通になりたかったんです」

穏やかに笑った八橋さんが歩き出す。同じように私も隣を歩く。

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