はなうらない
ふとそちらを見る。
「あ、こんばんは」
新聞を取りながら、やはり軽装の八橋さんを迎える。
家の外灯に照らされた八橋さんが笑った。
「どうしました?」
「いえ」
「お疲れ様です。ちなみに私も今帰ったばかりで夕飯も何もありません」
「お疲れ様です。じゃあ出前でも取りますか?」
「良いですね! チラシあったかな」
玄関の扉を開いて、サンダルを脱いだ。
八橋さんが後ろ手に扉を閉める。
「あの」
何かを決したようにこちらを見上げるので、私は新聞紙を持ったまま立つ。
「ただいま」
もしかしてそれを言うのに躊躇っていたのか。
「おかえりなさい」
何度でも返すから、と笑った。
はなうらない
END
20210504