贅沢な寂しさ ~身分違いの結婚
私の両親も 悠樹との結婚を
手放しで 喜んだわけじゃなかった。
私の父は 松本市で 警察官をしていて
裕福ではないけど 固い家庭だった。
松本の実家に 悠樹と2人で 挨拶に行った時
両親は 悠樹の身分に 驚いて 無言になった。
「柴本さんの お気持ちは とても 有難いんですが。明日香に 経営者の妻が 務まるとは 思えません。」
しばらく 沈黙した後 父は 神妙に言った。
「お義父様の 心配は わかります。明日香さんのことは 僕が 必ず守ります。」
悠樹の言葉が 嬉しくて 私は 涙汲んでしまう。
「柴本さんの ご両親も 明日香では 納得しないでしょう。」
「いいえ。僕の親には もう話してあります。お義父様の 承諾を 頂いたら 改めて ご挨拶に 伺います。」
「うちは この通り 地味な家庭です。明日香は 柴本さんと 結婚することの意味が わからないと思います。いつか 柴本さんにも ご迷惑をかけることに なってしまうでしょう。」
「いいえ。僕は 明日香さんの存在が 支えになっています。僕の方こそ 明日香さんに 苦労をかけることが 多いと思います。」
「うちは 柴本さんのお宅のように 裕福ではないけど 平凡でも 幸せに暮らしてきました。だから 明日香にも 平凡でいいから 幸せになってほしいと思っています。」
父の言葉に 私は 驚いて 顔を上げる。
父は 裕福な悠樹の実家に 遠慮しているわけじゃない。
違い過ぎる境遇に 嫁ぐ私を 心配している…
「お父さん…ありがとう。私 今まで 一度も 不幸だって思ったこと ないよ。だから 悠樹さんとも 幸せになれると思う。環境が違うから 戸惑うことは あると思うけど。悠樹さんと一緒なら 乗り越えていけると思う。」
「明日香。生活って そんなに甘くないんだよ?今は そう思っても これからの長い年月には 色々な苦労が あるんだよ?」
「お母さんだって 警察官の奥さんになって 苦労したと思うけど。でも お父さんのこと 信じてたから 頑張って来れたんじゃない?同じだよ。私も。」
「明日香…」
「そうね…お母さんも 警察官と結婚するって言った時 お祖父ちゃんに 心配されたわ。」
母の 助け舟に 父は 苦笑した。
父の笑顔は 少し寂しそうだった。