戦国占姫
第四話 占いの女

 やっと長い一日が終わる。
 ミツナーリに連れていかれた場所は、薄暗い牢獄ではなかった。意外だった。ここ何日かは、退屈な牢獄だったから・・・。
 (身元の分からない私をどうするつもりかしら?)
 私に用意されたのは木板の・・・広さで言えば四畳くらいの部屋。ロウソクの灯りが部屋を照らす。
 布団がたたまれて、部屋のすみに置かれていた。
 (よかった。もう牢獄はこりごりよ)

 「それでは、私はここで・・・」
 「どうもありがとう。ミツナーリ」
 「明日は我が王が会うとのことです。それまで自由にしていただいて結構です。くれぐれも逃げようとなされないように・・・」
 「・・・分かっているわよ! 大人しくしているわ」
 「それが賢明です。・・・それでは、また明日」
 「・・・ハイ」
 扉を閉めてミツナーリは出ていった。

 「はー」と、ため息が漏れる。
 (どうして、このようになってしまったのかしら・・・)
 ゆっくりと思い出してみた。
 (私は・・・)

 私は大学生。
 「氷見川(ひみかわ)姫子(ひめこ)」
 趣味はタロット占い。
 私の占いは、よく当たる。今まで外したことがない100%的中。まるで未来を見透すように・・・。
 だから、ヒミコと呼ばれていた。

 いつでも占えるようにタロットカードは肌身離さず持っていた。捕らえられてからは、それはどこにあるのか消息不明。恋人と引き裂かれたような感覚を感じている。
 (明日、ミツナーリに聞いてみよう)
 布団を部屋のすみに敷いた。バフっと倒れ込む。中にこそこそと潜り込んだ。
 (久しぶりだわ。嬉しい)
 布団の温もり。今まで当たり前だと思っていた。特に考えたことは無かったが、この布団にありがたみを感じていた。牢獄を数日間経験したことが、私をそう思わせた。もう寒さで起きることはない。
 (・・・おやすみなさい)

 「キャー」
 私は夢を見た。
 イヤな出来事を再現していた。
 ある日、私は通学路で黒服を着た男達に拉致をされた。睡眠薬を染み込ませたハンカチーフ。それを顔に押し付けられ、意識を失った。
 どれだけ車で移動したのかは分からない。
 降ろされた場所は、見覚えのない土地。人気のない崖だった。この状況はサスペンスドラマさながら・・・。

 私は、ある雑誌で占いコーナーを担当していた。
 口コミで、よく当たる占い師と評判だった。
 ・・・それを恨まれたのだろう。同業者が雇った男達に私は崖に追い込まれ、足を滑らせた。そこまでは覚えている。・・・目覚めたらこの世界にいた。
 気がついた時には、兵士達に囲まれていた。私は意味が分からないまま、捕らえられて牢獄の中だった。

 運が良かったのは、乱暴なことをされなかったこと。この領土の王がそう命令を下したから・・・らしい。
 その王に私は生かされている様子。
 明日は私にとっては戦場だ。王を言葉で打ち負かさないと次の日の命がない。
 (・・・神様は、私をどうするつもりなの?)
< 4 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop